温室効果ガスを有用な化学原料に転換  ~低温活性で長寿命な組みひも状の触媒を創成~

<研究の背景と経緯>

一酸化炭素と水素の混合ガスは、これを出発点として合成ガソリンやアルコールなどさまざまな化学製品が合成される化学原料として知られています。従来、木炭や石炭を高温で水蒸気改質することによって生成されてきました。これを、メタンと二酸化炭素の混合ガスから合成するメタンドライリフォーミング(DRM)が、天然ガスの高効率利用と地球温暖化抑止の観点から、近年注目されています。

DRMはこれまで、コーキングを避けるために高温条件下(800度超)で行われてきましたが、燃料消費量が多いため実用化には至っていません。そこで、プロセスの低温化(600度未満)が求められていました(図1)。

DRMの主反応(CH+CO=2CO+2H)は、特に低温領域(600度未満)において炭素析出反応(2CO=固体炭素+COおよびCH=固体炭素+2H)と強く競合します。析出した固体炭素は触媒の失活と原料ガス気流の閉塞をもたらし、結果として生産効率が下がり、反応装置が劣化します。炭素析出を抑えることは、低温活性・長寿命DRM触媒の開発における最重要課題の1つでした。

これまでの研究では、セラミックス粒子または多孔体の表面に金属微粒子を分散、担持させた複合材料(担持触媒)に対して、化学組成、粒子または細孔のサイズ、あるいは晶癖(結晶の形状)を調整し、金属-セラミックス界面における析出炭素分解・除去機能を強化することが図られてきました。しかし、表面に担持した金属微粒子が凝集して、金属-セラミックス界面の面積が減ってしまい、長時間安定的に炭素析出を抑えることは実現していませんでした。

 

<研究の内容>

本研究では、担持触媒を開発する従来の考え方とは異なり、DRM触媒材料におけるナノ相分離構造のトポロジー(位相幾何学的絡み合い)を制御することによって、望みの触媒機能(低温活性と炭素析出抑制)を実現しました。

研究グループは、合金を前駆体として、混合ガス中加熱処理によって金属と酸化物がナノスケールで相分離することを促進し、金属相と酸化物相とが繊維状で組みひものように絡み合う特殊なナノ相分離構造をした「根留触媒(Rooted Catalysts)」を独自に創成しました(図2)。具体的には、ニッケル・イットリウム合金を前駆体として、一酸化炭素・酸素混合ガス中で加熱処理することにより、極細繊維状のニッケル(Ni)相と極細繊維状のイットリア(Y)相の組みひもからなる根状の組織がY粒子内部深くに張り巡らされ、しかも表面のそこかしこから露頭しているという、独特のトポロジーを持った根留触媒「Ni#Y(ニッケル・ハッシュタグ・イットリア)」を作製しました(図3)。

従来の触媒材料では困難だった低温領域(500度未満)において、この根留触媒は長時間(1,000時間以上)安定的にDRMを駆動したことから、低温活性で長寿命な触媒としての効果を確認しました。

根留触媒は、金属相と酸化物相とがナノ繊維状で組みひものように互いに絡み合う特殊なトポロジーによって、触媒反応における粒子マイグレーションや熱凝集が抑止され、高活性な金属-セラミックス界面が保持されると考えられます。その結果、炭素析出を抑える機能と低温でのDRM触媒活性を、長時間にわたり安定的に発揮します(図4、5)。

 

<今後の展開>

本成果は、天然ガスの利用効率向上と温室効果ガス低減への突破口となりえます。シェールガス注9)などの非在来型化石燃料の市場拡大や新興国の経済成長に伴って、地球規模の気候変動は今後も進むと予想されています。開発した触媒は、これに対して大きな抑止力を発揮すると期待されます。

また、複雑なトポロジーを持つ根留触媒材料のナノ相分離構造を解明できれば、材料のナノ構造をトポロジー制御することによる新しい触媒機能の創発が期待されます。本研究で実現した、合金を前駆体とした混合ガス中加熱処理による金属・酸化物ナノ相分離構造の自発形成は、独創無比の材料創成プロセスともいえます。研究グループは今後、この新しい概念をさらに開拓することを目指します。

<参考図>

図1 メタンドライリフォーミングの現在(左)と本研究により実現される未来(右)
触媒反応の低温化により、燃料消費と温室効果ガス低減を実現する。

 図2根留触媒Ni#Y2O3の合成プロセス

金属ニッケルと金属イットリウムを高温で溶かし合わせ、ニッケル・イットリウム合金をつくる。ニッケル・イットリウム合金を昇温(~700度)下で一酸化炭素・酸素混合気流にさらすことにより、金属・酸化物ナノ相分離が促進され、根留触媒Ni#Y2O3が得られる。酸素によってイットリウムがイットリア(酸化イットリウム)に変わる一方、一酸化炭素がニッケルを金属状態に保つ。 図3 根留触媒Ni#Y2O3のミクロ構造とナノ相分離構造

a)Ni#Y2O3粒子の外見。走査電子顕微鏡像。
b)Ni#Y2O3粒子の断面図。走査電子顕微鏡像。
c)Ni#Y2O3粒子の断面図。走査電子顕微鏡による拡大像。
d)Ni#Y2O3粒子のナノ相分離構造。走査型透過電子顕微鏡による元素分布像。


図4 根留触媒Ni#Y2O3によるメタンドライリフォーミング

a)従来型触媒(アルミナ担持ニッケル:Ni/Al2O3とイットリア担持ニッケル:Ni/Y2O3)および根留触媒Ni#Y2O3によるDRM反応の時間経過。活性を示す指標として縦軸に一酸化炭素生成率を、横軸に反応経過時間を示す。反応温度450度、ガス組成:メタン/二酸化炭素/アルゴンガス=1/1/98。ガス流量:100立方センチメートル/分。触媒量:100ミリグラム。
b)反応後の触媒材料。反応開始20時間後のNi/Y2O3は大量のコーキングによって体積が100倍近く増えているのに対し、反応開始後1,300時間のNi#Y2O3は体積増がほとんど認められない。
c)反応開始6時間時点でのNi/Y2O3とNi#Y2O3それぞれの走査型電子顕微鏡像。Ni/Y2O3には大量の繊維状カーボン(カーボンナノチューブ:CNT)が生成しているのに対し、Ni#Y2O3には有意のCNT生成は認められない。 図5 根留触媒がコーキングを抑える仕組み

a)従来型触媒(アルミナ担持ニッケル:Ni/Al2O3)表面におけるCNT生成の反応その場透過電子顕微鏡観測像。
b)5秒おきのスナップショット。担持ニッケル粒子が材料表面をはい回り(マイグレーション)、マイグレーションの軌跡として、CNTが伸長していく。
c)最終的には、ニッケル粒子を頭部に含む、ミミズのような形態のCNTが多数成長する。
d)根留触媒Ni#Y2O3は、担持触媒とは異なり、触媒活性中心(ニッケル)が酸化物相(Y2O3)と絡み合ってトポロジー的に固定化されているため、マイグレーションが起きず、その結果、CNTの伸長が阻害される。

<用語解説>
注1) ナノ相分離構造
いくつかの成分からなる物質が熱的に不安定な状態に置かれたときに発生する相分離構造のうち、特にそのサイズがマイクロメートル以下の構造を指す。

注2) トポロジー
「位相幾何学」と訳される。辺の長さや角度など定量的な概念を幾何学的対象から排除してもなお残される、「かたちの本質(結ばれたひもと結ばれていないひもの比較など)」を議論する数学体系。メビウスの輪、クラインのつぼなどの概念が有名。

注3) 合成ガス
一酸化炭素と水素からなる混合ガス。これを出発点として、合成ガソリンやアルコールなどさまざまな化学製品が合成される。従来、木炭や石炭を高温で水蒸気改質することによって生成されている。

注4) メタンドライリフォーミング(DRM)
メタン転換反応の1つ。理想的な反応式は(CH4+CO2=2H2+2CO)。実際の反応条件下では、逆合成ガスシフト反応(CO2+H2=H2O+CO)など複数の反応が競合する。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。

注5) コーキング
メタンやエタンなどを含むほとんどの炭化水素系反応に例外なく付随する、副生成物として固体炭素を析出する現象。特に低温領域(600度未満)において顕著となる。甚だしい場合には反応装置の栓塞・破壊をもたらす。

注6) 根留触媒(Rooted Catalysts)
ナノ繊維状のニッケル(Ni)金属相とイットリア(Y2O3)酸化物相が組みひものように互いに絡み合う特殊なナノ構造を備えた触媒材料。従来の、金属粒子が酸化物表面に貼り付けられた構造を持つ材料とはトポロジー的に異なる。担持触媒は通常、金属/酸化物のように、スラッシュ(/:何かが何かの上に載っているさまを表象)を用いることで短縮記号化される。根留触媒は、金属#酸化物のように、ハッシュタグ(#:何かと何かがひものように絡み合っているさまを表象)によって記号化した。

注7) 触媒活性中心
所与の触媒反応に対し、中核的な作用を示す材料部位を指して「活性中心」と呼ぶ。担持触媒における金属微粒子表面・界面がこの名で呼ばれることが多い。対する担持体表面は、通常、活性中心とは呼称されない。

注8) マイグレーション
与えられた表面上を、表面に対して大きさの小さい粒子状の実体が、加熱や電場印加によって広範囲にわたって小虫のようにはい回る現象を指す。実際の担持触媒では、担持されている金属微粒子がもともとの位置から粒子数十個分以上遠方までマイグレーションする場合があることが知られている。

注9) シェールガス
粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料の1つ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。石油や天然ガス、石炭など在来型化石燃料と対比して、非在来型化石燃料の代表とされる。

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